がんになってから、いろいろなものを手放したと思う。
右胸と、3本の歯と、お金と、いくつかの仕事と。
これから髪を手放す。
何十年も続くであろうと確信していた平凡な日常が、そうではないかもしれないものに変わった。
でも、決して悪いことばかりではないと思う。
綺麗ごとだと思われるかもしれないけれど。
無理にポジティブになろうとしているように思われるかもしれないけれど。
数えきれないほどの人たちが、出会ったことさえない人たちも含めて、私を救ってくれていることを実感する。
パートナー、家族、友人、仕事先の人。
お医者さん、看護師さん、薬剤師さん、検査技師さん。
医療機器を開発している人、がん治療の研究をしている人。
過去に同じ病気に罹り、治療を受けた人たちのデータが、いま私の治療に生かされていて。
どなたかが払ってくださった健康保険料が、私の治療に使われていて。
私が今まで周りに与えてきたものより、
受け取っているもののほうが圧倒的に多い。
自分がいかに愛され、大切にされているか実感できたことは
何事にも代えがたい宝だと思う。
そして、自分のことをもっと大切にしようと素直に思えた。
なんてすばらしい世界に生きていたんだろう。知らなかったよ。
人間って本当にすごいね。